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「サッカーが難民の子どもたちに夢と可能性を与える」 林一章が難民キャンプで感じたこと

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<トップ写真:本人提供>


三重県のサッカークラブ「鈴鹿ポイントゲッターズ」や「伊賀FCくノ一」でコーチを務めるサッカー指導者の林一章さんは、一般社団法人津市スポーツアカデミー MARAVILHAの代表を務め、社団法人の活動としてシリアやレバノンなどで行き場を失っている難民キャンプの支援に長らく携わっています。

自ら開いたチャリティーフットサルで集まった参加費を現地に支援したり、現地に赴きサッカー教室を開いたり。“ボールを蹴ること”を通じ、遠く離れた難民キャンプで不安に苛まれる人々に希望を与えようと奔走中です。

なぜ、林さんはこの活動を始めようと思ったのか。多くの人が知ることのない難民キャンプで学び、感じたこととは。

そして、サッカーが持つ力や現役アスリートだからこそできるアクションとは。


スポーツは難民に夢や可能性を与える

僕は子供の頃から地図を見るのが好きで、世界への関心が生まれた社会科の教師を志したのもここが起点です。自分の好きな “世界” のことを伝えたいと。結果として社会科の先生になれましたが、自分が熱量を持って世界のことを伝えても、興味を持ってくれる生徒は少ないんですよね。逆にこっちの熱量に引いてしまうくらい。難しいものだなと思って日々を過ごしていました。

そんなときに、元サッカー日本代表の北澤豪さんがJICAのオフィシャルサポーターとしてザンビアに訪問している姿をテレビで見たんです。現地の人たちとサッカーを通じて触れ合っていたのですが、スポーツを通じて人々に元気を与えている姿を見て、心が動きました。

これこそ本当に自分がやりたかったことなのかな、と。社会を良くするために困っている人たちがいる現場へ赴いて、サッカーを通じて触れあい、その経験が現地の子供たちの成長につながる。「これこそが人間教育だな」と思ったんです。社会科の先生として伝えたかったこととも繋がりました。

その後、友人を通じて北澤さんと交流をもたせていただきました。そして、2007年に北澤さんがJICAの活動でシリアに行く際、アシスタントとして連れていってもらいました。これが私にとって最初の“国際協力”活動になります。

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<写真:本人提供>


このとき、UNRWA(国際連合パレスチナ難民救済事業機関)とJICAが共催するJICA CUPに参加しました。これはパレスチナ難民を対象に行なったものです。

現場で感じるものは非常にたくさんありました。

パレスチナ難民の人は、国外に出ることができない。移動規制もある中でいろいろと選択肢が絶たれています。その中でスポーツをすることによって、明日を頑張ろうと思えるし、夢も生まれるんです。

難民キャンプにいる多くの人は「この生活を続けたところでどうなるかわからない」という思いで過ごしています。ですが、スポーツをすることで「もしかしてここで活躍すれば、国外に出られるかもしれない」という可能性が生まれるんですよ。

この大会を通じて、新たな自分のなりたい姿を見つけられたような気がしました。「国際協力に関わりたい」という思いが強くなったんです。


そんな中、2011年にシリア内戦が始まりました。そして、翌年の2012年JICAの活動を通じて知り合った方が「シリア支援団体サダーカ」という難民支援団体を作りました。本格的に僕が活動を始めたのはここからです。シリア難民の支援活動をする中で、僕は日本にいながら広報や日本国内での予算集めを担い、サポートをしていました。

最初は物資を集めて送ることが手っ取り早いと思ったのですが、輸送費が膨らんでしまう。その輸送費の分で助かる命もあるかもしれない…と考えると、お金を集めてそのまま難民の移動先のヨルダンで活動する支援団体に送るほうがよいだろう、と。

集まったお金は生活必需品や、寒い冬を凌ぐための暖房器具や毛布などに充てられました。


川崎フロンターレ・小林悠らが協力

どうやってお金を集めたかと言うと、チャリティーフットサルです。チームの参加費が難民支援活動費になる形です。

参加者にはボールを蹴ることを楽しんでいただければOKなのですが、「サッカーを楽しんだことによって救われる命があるんだ」ということを知ってほしい。こう思いながら呼びかけをしていました。

運営をするにあたって色々な人や団体が協賛してくれました。地元の企業から町の小さな商店、そして繋がりのあるプロサッカー選手からサイン入りグッズもいただきました。初回の2013年を含めた2回、川崎フロンターレの小林悠選手からもご提供いただき、MVP用の景品としました。もともと繋がりがあった中、依頼をした際に快くOKしてくれたという流れです。

プロサッカー選手のグッズがプレゼントされるとなったら、大会も認知されて参加者も増えますよね。参加者が増えれば送れるお金も増えて、難民の人たちの生活が少しでもよくなるかもしれない。そういう意味で、著名なサッカー選手である彼が協力してくれたことは大きかったです。

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<写真:本人提供>


僕はサッカー指導者の仕事があるので、いわゆるシーズン中は動けません。だから、12月末か1月頭が指導者以外の活動に注力できる時。現地の難民キャンプに足を運ぶことができるのはこの時期になります。

今はコロナで渡航ができず、最後に行ったのは2019年の1月ですね。(ここで難民キャンプの子どもたちに向けてサッカー教室やサッカー大会を行なってきました。

現地の子どもたちにはプレゼントを持っていくのですが、私の地元でもあり指導をしているチーム・伊賀FCくノ一のユニフォームを渡してきています。

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<写真:本人提供>


活動を通じて「スポーツの偉大さ」を感じた

現地へ行って知ることは本当に多いです。難民というとアフリカで飢餓に苦しんでいるやせ細った子どもをイメージする人も多いかなと思います。ただ、そればかりではないんです。特に僕が支援をしている難民キャンプでは、物の売り買いもしていますし、スマートフォンを持っている人も普通にいる。

私が行ったザータリキャンプは、言うなれば一つの“街”でした。だからこそ、その中で貧富の差もある。例えば日本で急に内戦が始まり、僕らもどこかの国に逃げなければいけなくなったとします。そうなったとき、スマートフォンやPCを持っていきますよね。そうイメージしてもらえれば、わかりやすいかなと。


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<写真:本人提供>


僕は、この難民キャンプのリアルな側面を、サッカーを通じて知ることができました。スポーツは世界情勢を知るための媒体として大きな力があると思いましたし、難民キャンプでサッカー教室をした際に、子供たちが見せる笑顔に心を打たれました。
単純に、難民キャンプの子たちはサッカーが好きなんですよね。


現地の人に「人工芝のグラウンドがあるから」と連れて行かれたら土の広場で。最初は4人くらいしかいなかったのですが、サッカーをし始めたら、終わった頃には30人ぐらいに増えているんです。

ボコボコなグラウンドでゴールもボールも一つしかない。チームメイトの見分けもつかない状態。そんな中、とりあえずボールがあるところにみんなが寄ってきて、ボールを持ったらシュートを打つ。それだけなんですけど、みんなが楽しむ。その中で私自身も初めて出会った現地の人たちの距離が近づきました。


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<写真:本人提供>


サッカーの楽しさの原点に触れられた気がしましたね。ボールがあるだけで言葉もわからなくても、その場にいる人たちの距離感が狭まり交流が生まれる。本当に、世界の共通語だと思いました。


スポーツが、サッカーがあることで繋がるもの、気付かされるものはあるんだなと。プレーヤーを辞めてこういった活動をしてから、スポーツの偉大さを感じる瞬間は増えたと思います。

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<写真:本人提供>


僕はこの活動を続けていきたいと思っています。

今の日本の子供たちの多くは、何不自由なく生活できている。自分の好きなことや描いた夢に対して行動ができる。だけど、僕の活動現場にいる難民の人たちは移動も規制され仕事も選べない。なりたいものになれず、行きたいところに行けないんです。

このような難民の人たちが不自由ない世界になるためのサポートは続けていきたいですし、これが僕の目標です。最終的には、僕らがこういった活動をしなくても良い世界が生まれることが必要なんですけどね。


現役選手ほど、活動や発信に意欲的に

活動を通じて感じたのは、スポーツ、アスリート、そして携わっている人の持つ力は大きいということです。特にサッカーは世界最大級のスポーツで、世界の共通語にもなっています。つまり、サッカーを使えば多くの人が集まるんです。

そして、その分野で活躍している現役のプレーヤーであれば、その人の競技外の活動に興味関心を持ってくれる人もたくさん出てくると思うんです。


アスリートは一般の人にはない大きな影響力があります。これは一例ですが、東日本大震災のときに当時、ドイツでプレーをしていた内田篤人さんがインナーシャツにメッセージを書いてカメラに向かってアピールしていた姿が世界中に発信されました。選手・監督として名古屋グランパスで活躍したドラガン・ストイコヴィッチさんも同じように祖国に対する空爆の中止を求めるアピールしていました。

僕が偉そうに言える立場ではないですが、アスリートは影響力が大きいんです。だからこそもっと発信をしてほしいですし、色々な世界で見たこと、体感したことを伝えてほしい。

アスリートの中には、自分がやってきたスポーツの世界しか知らない方が多いと思います。自分自身がそうでした。ただ、様々な人に会って話をして新しい世界を見ることで、活動の幅もできることも広がってきます。そして、その活動を発信していけば感化されるファンの方も生まれるはずです。

特に “現役選手” だからこその影響力はあると思います。人生のなかでその期間は決して長くはないものですが、現役だからこそできることは本当に多い。私の立場から語るのはおこがましいですが、多くのアスリートには一歩を踏み出してほしいと思います。

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<写真:本人提供>

※本取組はアスリートの社会貢献活動を表彰する『HEROs AWARD』の2021年度、男性部門で最終候補としてノミネートされました。
受賞した取り組みはこちら↓
https://sportsmanship-heros.jp/award/


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